住宅デザイン会社が運営・プロデュースするカフェ
外壁にさり気なく描かれたイラストやユニークな看板は、シンプルで多くを主張はしないがシンボリック。軒先のテラスに置かれたテーブルや椅子は、一見無造作のようでいて通りがかりにも目を引く。足し算と引き算の掛け合いが絶妙で、センスの良さが光る店構えだ。
さまざまなフォルムのテーブル&チェアが置かれたカフェスペースには、ランチタイムを楽しむ人やおしゃべりに興じる女性グループがくつろいでいる。正面のレジ前にはコーヒー関連の小物が並んだ棚を中心に、雑貨やアクセサリーのショーケースなどを配置。左手には大きな鏡を配したカウンターも用意されている。
随所に特徴的な雰囲気をまとうこのスペース、実は住宅や店舗のデザインを行う事務所「WAPLUS」が設計、運営を行っているカフェだとわかると腑に落ちる。
手探りで始めたカフェ運営
オーナーはWAPLUSの代表を務める島田和俊さんと、カフェを切り盛りする妻・淳子さん。お互い秩父出身で同級生なのだとか。この店は和俊さんの祖母が営んでいた荒物屋(内装小物などを販売する商店)をリノベーションしたもので、淳子さんのご実家も店から徒歩10分ほどのところにあるという。
デザイン会社直営のカフェと聞くとスタイリッシュでソリッドなイメージを抱きがちだが、この店にはスタイリッシュながらレトロな温かみがあふれている。ワプラスというワードには、和に新しいものをプラスしていくという意味も込められている。この店も天井や梁、サッシなどに荒物屋時代の面影を残しつつ、カフェという新しい一面がプラスされた。
元々、カフェが好きでいつか自分でもやってみたいと思っていた淳子さん。仕事の打ち合わせができる場所が欲しいという和俊さんとの思惑が一致して、「WAPLUS COFFEE」が誕生。2019年5月で丸8年が過ぎた。デザイン事務所はインテリアショップも兼ねていて、セミオーダーの家具を製造・販売もしている。カフェは打ち合わせスペースだけでなく、ショールームの役割も果たしているという。
「元々私は行動に移るまでに時間がかかる方なんですが、主人が『よし、やっちゃえ』って。その言葉に背中を押してもらって、夢だったカフェを開店することになったんです」
カフェに携わるのは初めてだったという淳子さんだが、開店当初からエスプレッソマシンと焙煎機を導入。焙煎機は購入してから販売元のセミナーなどで勉強。エスプレッソマシンも焙煎機も奥が深く、やり始めた当初「これはえらいものに手を出してしまった」と思っていたと笑う。
思い思いの時間を過ごすための適度な距離感
オレゴン州のポートランドが好きで何度か行ったことがあるという島田さん夫妻。「向こうはカフェの使い方が日本とは違うんです。コーヒーを飲むという習慣自体が定着していて、カフェでの時間の使い方がとても良いなと感じます」と淳子さん。
「私自身、コーヒーを飲むことも好きだけど、それ以上に『コーヒーを飲む時間』が好きなんです。だから、ここを訪れるお客さまたちにも、このスペースで"良い時間"を過ごしてもらえたら」国内外のカフェを巡って感じた思いを店づくりに反映したという。
店の設計を担当した和俊さんにリクエストしたのは「お客さまをほっとき過ぎず、近過ぎず遠過ぎない距離を保つこと」。最初にレジでオーダーをしたらカフェスペースへ。レジ前にはカフェスペースと切り分けるように棚が配置されている。「どうぞゆっくり過ごしてくださいね」、そんなメッセージを店のレイアウトで伝えられるのはデザイン会社ならでは、かもしれない。
さまざまなニーズを生み出す広がりのある空間
WAPLUS COFFEEの空間には、さまざまな表情がある。カウンターコーナーには、スマホの充電やノートパソコンなどの使用ができるようコンセントを設置。もちろんWi-Fiも飛んでいるのでノマドワークにももってこいだ。
カウンターの手前に設けられたポップアップスペースでは、作家作品を展示することも。向かいに建つ木造三階建ての古民家が展示作品に溶け込むさまは、まさに秩父らしい光景だ。また、カフェスペースの壁を使って作品展示をすることもあるという。展示はいずれも不定期だが、訪れるたびに小さな変化を見つけるのも楽しみのひとつとなりそうだ。
より良いものを提供したい。その原動力は探究心
デザイン事務所運営ということで、心地よい空間を提供することはお手のものだ。かといってビジュアル面が先行しているわけではない。前述のようにコーヒーは淳子さんの手による自家焙煎だ。ちょっとした条件の変化でも仕上がりが変わってくるという繊細な焙煎作業。細かい変化にも神経を張り巡らせながら味を仕上げていく。焙煎は週2回ほど、近くにある作業場で行っている。
フードメニューはケーキやスコーン、サンドイッチなどが並ぶが、特筆すべきはカレー。旅先のスリランカで出合い、レシピを教えてもらったというカレーは淳子さんが一から仕込む。ココナッツをベースにしたチキンカレーとレンズ豆を使ったダールカレーの二色カレーは、いわゆる「喫茶店のカレー」とは一線を画す本場の味だ。ちまたでもブームの兆しを見せるスリランカカレーが、秩父のカフェで食べられるとは驚きだ(日によってメニュー変化や提供のない日もあるとのこと)。
自分が好きではないもの、おいしいと思えないものを販売するのは「気持ち悪い」と淳子さん。好きなものをとことん追求し続ける淳子さんの探究心、好奇心がWAPLUS COFFEEをさらに発展させていくことだろう。
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