スタイリストとして活躍する毎日を支えたのはラーメンだった
2020年9月に創業した「らーめん よこ田」。初めて訪れた人なら「御花畑駅」の真向かいという立地に驚かされます。店内で食事をしていると、駅を発着する電車の音がよく聞こえてきます。
店を経営するのは小鹿野町出身の横田和信さん。高校まで地元で過ごした横田さんはスタイリストを夢見て都内の専門学校に進み、卒業後はアシスタントとしてキャリアをスタートさせました。衣装を考え、撮影現場を奔走する日々は、思っていた以上に刺激的で楽しい世界だったと振り返ります。
横田さんが社会人になった2000年前後といえば、都内では「麺屋 武蔵」「せたが屋」といった今も人気のラーメン店がまだルーキーだった時代です。現場近くに話題のラーメン店があると分かれば、必ず仕事帰りに立ち寄るほどラーメンの虜に。「事前にラーメン店をリサーチしてから現場に入り、食べたラーメンの感想をSNSの日記に書いてました」。
33歳でスローライフ宣言。第2の人生をラーメンに捧げよう
業界に入って5年目の25歳で独立し、それまで以上に多くの経験を積んでいった横田さん。しかし30歳を過ぎた頃から将来への不安を覚えるようになり、世代交代の波を実感することが増えていきました。
「充電期間に入ろう」。33歳になった横田さんは一大決心をして帰郷。抱えていた仕事をすべてアシスタントに託して業界を離れ、スローな時間が流れる秩父で心と体をチャージすることにしました。「といっても、働かないと食っていけませんからね。ジムのインストラクターやショップ店員などをやりましたが、どうも心から楽しめない自分がいて」。消化不良な生活を送る中で唯一の癒しは、東京時代から続けていたラーメンの食べ歩きでした。
秩父に戻って3年が経ったある日のこと、横田さんはラーメン店を立ち上げる決意をします。ラーメン店に就職し、スープの取り方や調理技術などを基礎から習得。「店の改装も終わりが見えてきたころ、ラーメンブログで開業を告知したんです。食べ歩き日記を書いていた人がある日突然『ラーメン屋さんになります!』ですからね、読者さんたちは相当ザワつきました(笑)」。
メニューはどれも自信作。イチオシはあえて決めず
券売機にならんだメニューを見ていると「うちはあえて『これがイチオシ』っていうのを決めていないんです」と、横田さんからひと言。「どれも個性の違うメニューを用意していますから、その時の気分でお好きなラーメンを選んでもらえればOKです」。
それならばと、券売機の左から順に3品をオーダー。「醤油らーめん」(800円)は、醤油の香りに背脂の甘味が溶け込んだコクのあるスープが自慢です。食べていくにつれ、干しエノキやフライドオニオンといったトッピングからも香りや旨味が出て、どんどん味わいが変わっていきます。
次は"毎日食べたくなる旨さ"がコンセプトと横田さんが表現する「貝出汁そば」(900円)です。大山どりのガラで取ったやさしいスープを支えるのはハマグリやシジミの濃厚な滋味があふれる貝ダシ。細めのストレート麺にもしっかりとスープが乗って、口いっぱいに豊かな風味が広がります。
最後は寒い季節にぴったりな「味噌らーめん」(850円)です。豚骨をじっくり煮込んだスープに北海道味噌と秩父味噌をブレンドした特製ダレで味付け。こちらは中太の縮れ麺を使っていて、トッピングの豚ミンチ肉やフライドオニオンの甘味をしっとりと持ち上げてくれます。
「醤油と貝出汁に使っているのはこれです」と、店内にある冷凍庫から取り出して見せてくれたのは大山どりのガラ。上質な脂としっかりとした旨味が特徴の、日本を代表する銘柄鶏です。これに胸肉や季節の野菜を加え、それぞれの素材の旨味をじっくり引き出しながらあっさりした口当たりの淡麗スープを取っています。
仕込みに使う野菜類は近隣の農産物直売所で購入するという横田さん。「夏はキャベツ、冬は白菜を大量に入れてますから、季節によってスープの味わいは変わってきます」。
ラーメンマニア目線で導き出した、味へのこだわり
さまざまなラーメンを食べてきた経験から、ひと口目のインパクトや感動は譲れないポイントとして創業から守り続けています。一つ目のこだわりはメニューによって使い分ける2種類の麺。醤油らーめんと貝出汁そば用の細麺は全粒粉を練り込んであり、小麦の豊かな香りが広がります。一方、味噌らーめん用の中太縮れ麺は田舎うどんを思わせるようなモチモチとした弾力のある食感。麺は蒲田にある「菅野製麺所」から仕入れています。
食材や調味料はなるべく埼玉県産のものを使うというのが二つ目のこだわり。醤油らーめんのカエシに使うのは坂戸市「弓削多醤油」の丸大豆醤油、味噌は皆野町「新井武平商店」から。「カエシの旨味付けに使うシイタケも直売所で買ったものです」と横田さん。
三つ目のこだわりは"旨味の相乗効果"。鶏肉のイノシン酸、貝類のコハク酸、シイタケのグアニル酸など、いくつもの旨味成分を掛け合わせることによって「よこ田」の味は一層深みを増します。「どれかひとつが突出することなく、旨味のバランスを見ながら『おいしい!』と思ってもらえる味を作っています」。
いくつものダシを掛け合わせて味を完成させ、ビジュアルに気を配って盛り付けることは、横田さんに言わせればラーメンをコーディネートしていく作業。ゆえに「スタイリストと通じる部分が多い」そう。「美しい盛り付けや楽しい空間作り、それにSNSを使ったPRなど、ラーメン店をプロデュースしていると考えると、こんなにワクワクする仕事ってないかもしれませんね」。2022年9月に開業2周年を迎えた現在も、尽きることのないアイデアをラーメンで描き続けています。
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