福岡の本店の味をそのままに東京へ進出
ダークカラーの渋い外観とは対照的な黄色い暖簾をくぐり、店内でまず目に入るのはカウンター席とその向こうにある厨房。うどんを茹でるスタッフの真剣なまなざしと笑顔、活気があふれる雰囲気に期待が高まる。
店内はカウンター席のほかにテーブル席があり、全部で30席ほど。お昼どきは近隣にお勤めの方や学生さんでいっぱいになるそう。最近は、遠くから足を運んでくれるファンも多いという。
2016年3月、福岡に本店を持つ豊前うどんの人気店「大地のうどん 東京馬場店」が東京へ初進出した。福岡では行列の絶えない人気店だが、ここ東京における認知度はそれほど高くない。開店当初は客足が伸びず苦戦を強いられたこともあったそうだ。
"東京総司令官"を任命され、福岡から東京へ勇んで乗り込んで来た店長の阿部修さんは、福岡の店とのギャップに驚いたが、悲観することはなかったそう。
「福岡の本店も不便な場所にあり、最初はなかなかお客さまが来なかったそうです。大将が『切りたて・茹でたて』にこだわるようになってから、お客さまが増え始めたとのこと。おいしいうどんを出していれば、どんな場所でも必ずお客さまが来てくれる」そう信じて、福岡から食材を取り寄せ、本店と全く同じ味を提供することに徹した阿部さん。
すると、福岡で「大地のうどん」のファンになった人が、東京でも同じうどんが食べられることを知り、足を運んでくれるように。近隣に新たなファンが増え、なかには1ヶ月もの間、毎日食べに来てくれた常連さんもいるそうだ。
絶妙な温度管理と熟成で生まれる透き通ったうどん
「大地のうどん」のうどんは、他店のそれとは全く異なる。すくい上げると透き通ってツヤツヤと輝き、口に入れるとしなやかに喉へとおさまる中太麺。真っ白で硬いうどんを噛みしめて食べることに慣れた者にとっては、見た目も味も衝撃的だ。
このなまめかしいうどんの秘密は、徹底した温度管理と絶妙な熟成、茹で加減にある。聞くと、生地をまるめて高温で6時間、常温で1日半、低温で1日、また常温に戻して......といったように、3種類の温度を使い分けながら3日間かけて熟成。注文が入ってから切りたて、茹でたてで提供しているそうだ。熟成にも茹で加減にも、その日の気温や湿度などのコンディション、お客さまの入りなどを考えた判断が必要であり、修行で培った経験と絶妙な感覚がなければ成立しない。まさにその日勝負の"一期一麺"だ。
さらに、"切りたて"というところもポイント。「大地のうどん」を開店した当初、大将は切り置きした麺を使っていたが、どうも客足が伸びないため、切りたてで提供するように。するとうどんにモチモチとした食感が生まれ、お客さまにも好評だったとか。それ以来、切りたて茹でたてで提供するのが「大地のうどん」のこだわりとなったのだ。
麺を茹でる時間はおよそ3分を目安としているそうだが、こちらも日によって変わる。まずは朝いちばんにうどんを茹でてみて、その仕上がりによって麺の茹で時間や常温に戻す時間などを調整するそうだ。熟成が進み過ぎたり茹で時間が長かったりすると、うどんがもろく切れやすくなってしまうため、繊細な作業となる。そして、最後に職人が指でつまんでチェックすることで、完璧な茹で上がりとなるのだ。
天ぷらも"揚げたて"がこだわり
「大地のうどん」で人気なのは、肉厚に切ったゴボウを丸く組んで揚げたごぼう天がのった、名物の「ごぼう天うどん」(600円)。福岡から取り寄せた大ぶりのゴボウは、噛むほどに甘さがにじみ出てくる。だしは羅臼昆布とかつお節、サバ節を使って毎朝仕込むそうで、こちらも福岡から届いた甘みのある醤油を加えて、しなやかなうどんを上品に包み込む。
天ぷらやかき揚げは、うどんの茹で上がりと同時に揚がるよう職人同士が連携しているため、茹でたてのうどんと揚げたての天ぷらが、同時に器に盛られて運ばれてくる。サクサクのごぼう天がつゆにジュワっと染み、ツヤツヤのうどんが現れる幸せが一体となっているのだ。
温かい「ごぼう天うどん」とは対照的なのが、冷たい「かきあげぶっかけ」(780円)。光り輝くうどんは、ぶっかけにするとさらにモチモチ感が増し、大きなかきあげと合わせると食べごたえ満点だ。ぶっかけのつゆには黒糖を加えているので、深みとコクが感じられるのもいい。
さらに、魚のすり身に野菜を加えてフワフワに揚げた福岡のソウルフード「丸天」(650円)も添えると、"ザ・福岡の味"の完成だ。
実はこのお店、都内で新しい店を出店すべく準備中で、店長の阿部さんは新店舗の立ち上げのためこの店を離れるそうだ。新たに店長を任されるのは、福岡の本店で3年、東京の店で1年修行を続けている大塚さん。おいしいうどんを提供することだけに集中し、寝ても覚めてもうどんの日々なのだとか。この店でしか食べられない艶やかでなまめかしいうどんは、更なる高みを目指して進化中。東京にはなかった福岡のうどんのおいしさを、ぜひとも多くの人に味わってもらいたい。
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