藤子不二雄Ⓐ先生の代表作『まんが道』に何度も登場したお店
椎名町駅の南口を出て「トキワ荘通り」と呼ばれる南長崎通りへ。「トキワ荘」は昭和を代表するマンガ家たちが若かりし頃を過ごした木造2階建てのアパートで、現在は「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」にてその様子が再現されています。
そんなトキワ荘跡地のすぐ近くにあるのが「松葉」。黄色いテントに赤い文字、メニューが書かれた赤いのれんが目印の中華料理店です。
お店の入口に貼られているのは、藤子不二雄Ⓐ先生の代表作『まんが道』に描かれた1コマ。なんとここに「松葉」が描かれています。「松葉」はトキワ荘に暮らすマンガ家御用達のお店で、当時1杯40円だったラーメンを出前でよく取っていたといいます。「ンマーイ!」は、「松葉」のラーメンを愛したマンガ家たちの決まり文句。ペコペコの胃袋を満たし、至福のときをもたらしたのでした。
「よく『あの漫画に登場する女性ですか?』って聞かれるんですけど、違うのよ」と、中からひょいと顔を出しながら笑顔で話すのは山本麗華さん。70年近く掲げられる「松葉」ののれんを守る三代目店主です。
「松葉」は麗華さんの義父が昭和27年頃に創業した中華料理店。店の一角には創業当時の写真が掲げられ、当時に思いを馳せることができます。
初代店主の息子で麗華さんのご主人にあたる一廣さんが二代目として厨房に立っていましたが、病気療養のためにほどなくして麗華さんが三代目を受け継ぎます。
「最初はまったく分からなかったのよ」と話す麗華さん。ひとりでお店を切り盛りして、まもなく30年目を迎えます。
店内は、カウンター2席とテーブル席4卓、小上がり席1卓のこぢんまりとした雰囲気です。昼時ともなると近隣に住まう常連客や、トキワ荘ゆかりの地として観光で訪れる人々で賑わいます。
カウンター席の上部には多くの色紙が飾られていて、トキワ荘で苦楽をともにした仲間たちのサインの寄せ書きのほか、現在も活躍する著名なマンガ家たちの色紙もずらり。イラストとサインに加えて「ンマーイ!」の名台詞を記すのが「松葉」流のようです。
「ラーメン大好き小池さん」のモデルになった昔ながらのラーメン
「松葉」のメニューは、カウンター上部に掲げられた短冊から選んで注文します。
一番人気の「ラーメン」(600円)は、漫画家たちが愛した昔ながらの醤油ラーメン。藤子不二雄Ⓐ先生の作品に登場するキャラクター「ラーメン大好き小池さん」が食べているラーメンのモデルになったとも言われています。
あっさりとしながらもしっかりコクのある醤油スープは鶏ガラがベースです。隠し味の煮干しの香りも良く、どこか懐かしさが感じられる素朴な味わい。中太麺との相性がよく、するすると啜り心地も抜群。ボリュームもあって、食べごたえ十分です。
ラーメンの次に人気があるのが「チャーハン」(600円)です。「松葉」のチャーハンは醤油ベースで、塩こしょう、うまみ調味料、数滴の日本酒とシンプルな味付け。付け合わせの紅しょうがはピリッとした味わいがアクセントになっています。みそ汁が付いているのもうれしいポイント。
具材のチャーシューはラーメンで使っているものと同じで、下茹でしたチャーシューを醤油ベースの煮汁で煮たたせています。肉厚で甘辛い味付けがクセになる味わい。
注文を受けてから鉄板で麺を蒸して、風味豊かなソースで仕上げる「ソース焼きそば」(600円)も、創業以来変わることなくありつづける「松葉」の定番メニュー。しっとりとした食感と香ばしさが合わさり、何度でも食べたくなる優しい味わいです。
「松葉を愛してくださったマンガの先生たちには本当に感謝しているのよ」と麗華さん。先代、先々代から受け継がれたのは秘伝の味だけでなく、一人ひとりのお客さまを、そして一食一食を大切に丁寧につくる想いなのかもしれません。
トキワ荘のマンガ家たちが愛した、懐かしく優しい味わいを楽しみに訪れてみませんか。
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