夜は居酒屋にもなる「小鹿田焼」の専門店
「小鹿田焼ソノモノ」は、さまざまなお店で賑わいながらも落ち着いた雰囲気のある、東長崎駅近くの商店街の中に店を構えます。
店内に入ると、壁一面の棚にも床にも、たくさんのうつわが並びます。その種類はお皿や急須、茶碗、マグカップなどさまざま。これらはすべて「小鹿田焼」と呼ばれる陶器です。約300年の伝統を持ち、大分県日田市にある小鹿田でその技術が受け継がれています。
「お店は2011年9月に東長崎でオープンして、2023年1月に今の場所に移転しました。個人商店がたくさんあって、こぢんまりとした静かな東長崎という街に、この店がよく溶け込んでいると思います」と話すのは、店主の榑松そのこさんです。
現在の店舗はもともと居酒屋だった建物で、店内にはカウンターがあります。2023年3月からは夜の時間帯に「酒と肴ソノモノ」をオープンし、小鹿田焼のうつわを使ってお酒や料理の提供を始めました。飲食店として営業を始めてから、お客さまの層が広がったと榑松さんは話します。
「飲食を目的にいらっしゃったお客さまが、この店でうつわに目覚めて、家にあるうつわをすべて小鹿田焼で揃えたという話を聞きました。そんなお客さまとの出会いがあると、料理の提供を始めて良かったと思いますね」。
ほかにも、海外から観光に来た方や東長崎周辺の飲食店の方も、小鹿田焼のうつわを求めて訪れるそう。世代や目的を問わず幅広い層のお客さまが、「ソノモノ」を通して小鹿田焼の魅力を発見しているようです。
日々の生活に馴染むうつわの数々
榑松さんが小鹿田焼と出会ったのは学生時代。学芸員資格取得のために、目黒区にある日本民藝館で博物館実習をしたことで、民藝の魅力を知ったことがきっかけだと言います。そのためお店には、小鹿田焼以外に籠やインドの染織品などの工芸品も並んでいます。
大学卒業後は、鎌倉にある工芸店に勤めることに。この間、山陰や九州、沖縄など全国の伝統的な手工芸の産地を訪ね歩き、つながりをつくっていったと言います。
その後は区役所で勤務をしていましたが、「やはり民藝に関わる仕事がしたい」と一念発起し、2011年に「小鹿田焼ソノモノ」をオープン。作り手とのつながりを活かし、今は現存する小鹿田焼の9軒すべての窯元と取引をしています。
小鹿田焼の窯元はその多くが世襲制。親から子へと技術が代々受け継がれながらも、バリエーションがどんどん増えているそうです。
「飛びカンナ」と呼ばれる細かい点や、ふちにある「くし描き」という波型の文様は小鹿田焼の特徴のひとつ。
「小鹿田焼は、山から土をとり、川の流れを使って土を砕き、電気を使わず足でけりながらろくろを回す『蹴ろくろ』を使うなど、江戸時代の開窯当時から変わらない製法でつくられています。自然の材料しか使っておらず模様もシンプルなので、どんな料理を盛り付けても馴染むところが魅力ですね」と語る榑松さん。素朴で美しい小鹿田焼のうつわは、日常にやさしく寄り添います。
作り手である窯元との信頼関係を大事に
大分県にある9つの窯元とは、30年近くの付き合いになるのだそう。長年の信頼関係があるため仕事がしやすいと言います。
「代替わりもずっと見てきて、もう親戚のような感じです。世襲制だから、『この子が大きくなって窯元を継ぐところまで見届けたい』という思いもありますね」。
小鹿田焼の専門店として、作り手とともに歩みながら、小鹿田焼の魅力を広めている榑松さん。「ソノモノ」を訪れたら、きっとあなたの暮らしにぴったりと馴染むうつわを見つけられるはずです。
※営業時間、販売商品、価格などが変更になる場合がございます。