「昭和文化の継承」と「地域の発展」をテーマにした文化施設
トキワ荘通り昭和レトロ館の前身である「味楽百貨店」は、戦後復興期の昭和20年代にマーケットとして建てられ、一階には肉屋や八百屋などの商店が営業を行い、二階はアパートとして利用されていたのだそう。そんな歴史ある建物を再利用したトキワ荘通り昭和レトロ館は、2022年の11月に、「昭和文化の継承」と「地域の発展」をテーマにオープンしました。
建物に入るとまず目に飛び込んでくるのは、たくさんの書物が並ぶ部屋。一階には(一社)マンガナイトが運営する「マンガピット」と「マンガナイトBOOKS」があります。「マンガピット」には学びに活きるマンガや学習マンガが7,000冊所蔵されており、小・中学生は250円で、一般の方も500円で利用することができます。その向かいにあるマンガ専門書店「マンガナイトBOOKS」では、マンガ作品の企画展も定期的に開催されています。
一階と二階の奥にはそれぞれ多目的室があり、シーズンごとにさまざまな企画展や地域のイベント等が催されています。取材に訪れた2024年10月は豊島区立トキワ荘マンガミュージアムの特別企画展「CAPCOM VS. 手塚治虫キャラクターズ-テヅカプファイティングユニバース2-」の第二会場として使用されていました。2024年11月1日からは「あの頃の給食とデパートでお子様ランチ」が開催。小学校の教室を再現した会場で、学校給食の変遷がわかる展示や、電動遊具が置かれたデパートの屋上遊園地をイメージしたコーナーなどが設けられます。
多目的室は、企画展等での利用がない期間は貸室としても利用されており、昭和の歴史・文化を次世代に継承する目的や、地域文化の発展および地域の活性化に寄与する目的を持ったさまざまなイベントやワークショップが開かれています。
懐かしい風景を描いた原画と当時の暮らしがよみがえる和室
二階にあがってすぐ右の展示室1「矢島勝昭 昭和のくらしギャラリー」には、郷土史家の矢島勝昭さんによる、昭和の暮らしを描いた原画等が展示されています。今から80~90年前、戦前期の日常的な生活風景が優しいタッチで描かれており、訪れた高齢者の方々が当時の暮らしを思い出して懐かしく語り合うことも多いそう。
ほかにも戦後の簡易パン焼き機や、豊島区とつながりの深いフクロウ・ミミズクのコレクションなど、矢島さんが収集していた貴重な品が飾られていました。
次に訪れたのが展示室2「昭和のくらし~昭和40年頃の日常~」。アパートとして利用されていた部屋を生かし、若い夫婦が二人で暮らしているという設定で、和室六畳間の生活が再現展示されています。
部屋の細部には1958年に発売されて人気を博した「プラッシー」の空き瓶や、昔懐かしい真空管ラジオなど、当時の暮らしが蘇るさまざまな雑貨が置かれています。ご案内いただいたトキワ荘通り昭和レトロ館の村松佑香さんによると、お年寄りの方だけでなくこどもたちも、見たことのない家電や暮らしの様子に目を輝かせて楽しんでいくのだとか。「訪れる方によって、楽しみ方も見るポイントも違ってくるのが面白いですね」とお話しくださいました。
神田川周辺と昭和の池袋を再現したジオラマ
展示室3と4には、ジオラマ作家の山本高樹さんが制作されたジオラマが展示されています。
展示室3「なつかしい昭和のおもかげ~人世横丁・神田川周辺の風景」に入るとまず目に飛び込んでくるのは、豊島区と新宿区の区境を流れる神田川周辺をイメージしたジオラマです。
神田川周辺ジオラマ(昭和40 年代後半イメージ)制作:山本高樹
ジオラマのモチーフになっているのは、1973(昭和48)年に発売された南こうせつとかぐや姫による「神田川」。若い二人が神田川近くのアパートで暮らす様子が、精巧なジオラマによって描かれています。
神田川周辺ジオラマ(昭和40 年代後半イメージ)制作:山本高樹
さらにその隣には、かつて池袋駅東口に存在した人世横丁を再現したジオラマも。
人世横丁ジオラマ(平成10 年代後半想定)制作:山本高樹
続く展示室4「高度経済成長期の豊島区~ジオラマでふりかえる昭和の池袋~」に展示されているのが、「旧豊島区役所・豊島公会堂・旧豊島区民センター周辺」と「池袋駅東口周辺」、「池袋西口周辺」のジオラマです。近年再開発が進んだ「旧豊島区役所・豊島公会堂・旧豊島区民センター周辺」は、豊島区民なら誰もが知る懐かしい場所。「池袋西口周辺」は戦後復興を象徴するバラック住宅と近代的なコンクリート造の東武百貨店のコントラストが印象的で、「池袋駅東口周辺」には都民の足として戦後復興と高度成長期の東京の発展を支えた都電が走る様子も見られます。
旧豊島区役所・豊島公会堂・旧豊島区民センター周辺ジオラマ(昭和40 年代前半想定)制作:山本高樹
池袋駅西口周辺ジオラマ(昭和30 年代後半想定)制作:山本高樹
池袋駅東口周辺ジオラマ(昭和40 年代前半想定)制作:山本高樹
開館して約二年。トキワ荘通りや豊島区立トキワ荘マンガミュージアムを訪れた観光客や訪日外国人だけでなく、地域に暮らすこどもからお年寄りまで幅広く訪れ、地域のハブとしての役割を確立しつつあるトキワ荘通り昭和レトロ館。村松さんは「さまざまな使われ方を試しながら、当館が地域の社会包摂的な機能を果たし、そうしたことを通して昭和の歴史や文化の伝承が進んでいくようになればと思っています」と話します。
懐かしさや新鮮さ、さまざまな発見があるトキワ荘通り昭和レトロ館を、ぜひ訪れてみてください。
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