商店街の奥に佇む大人な雰囲気のラーメン店
一橋学園駅の北口から学園坂通りを歩くこと4分でお目当ての「麺や あすみ」に到着しました。少し奥まった場所ですが、オープンから1年余りで多くのラーメンファンが「おいしい」と太鼓判を押す人気店です。
白木のカウンターを設えた清潔感のある店内。数年前までは居酒屋だったそうで、厨房機器とイス以外はほぼ当時のまま使われています。厨房では、店主の髙橋純さんが黙々と明日の仕込み作業を続けていました。
店主は元プロボクサー。次の夢をつかむために飲食業界で学び続けた
こどもの頃からスポーツ選手になるのを夢見て、学生時代は野球部やテニス部に所属していたという髙橋さん。高校卒業と同時に上京し、杉並区にあるボクシングジムに入門します。
"一度決めたらやってみる"が信条。プロになれる保証もなければ、稼げるアテもありませんでしたが、昼は飲食店でアルバイトをしながら夜はジムでハードな練習をこなすという生活を始めました。飲食店で働き始めた理由は「単純に、食べるには困らないかなと思って」。
未経験からボクシングを始めて約7年で念願のプロライセンスを取得。しかし、目に致命的なケガを負ってしまい、わずか1年足らずでリングを降ります。ボクシングの道を絶たれた髙橋さんが次に打ち込んだのは料理の世界。引退後は吉祥寺の「鉄板焼 一鐵」に入り、調理や肉のことをコツコツと学びました。
「『一鐵』で約6年間お世話になって、その後もいくつかの飲食店で働きました。独立願望は強い方でしたが、一流の料理人たちの姿を見るうちにだんだんと自信がなくなってしまい......。『料理の道もダメかな』と悶々としていました」。そんな髙橋さんの転機は、今も交流を続ける「一鐵」のオーナー・君島さんからのアドバイスがきっかけでした。
「僕がラーメン好きなのを知っていた君島さんから、『そんなに好きならラーメン業界で働いてみたらどうだ?』と言われ、33歳でラーメンの世界に入りました」。小金井市の「ラーメン 前原軒(現在は閉店)」に入社し、ラーメン作りのノウハウを地道に学んでいった髙橋さんは、入社からほどなくして店長に抜擢されます。
豚×鶏でじっくりと旨味を抽出した極上のスープ
「『前原軒』でスープ番を任されてからは無我夢中で勉強しました」と語る髙橋さん。ネット上で次第に「味が良い」というレビューが増えたことが大きな自信になったといいます。そうして満を持して2023年4月に「麺や あすみ」を開業。修業時代に培った知識と経験を自分なりに磨き、現在の味を作り上げました。
今回は髙橋さんがおすすめしてくれた「ちゃーしゅー麺」(1,050円)と「塩らぁ麺」(850円)を実食。味のベースとなるのは、豚のゲンコツと背骨、鶏のモミジを8時間ほど煮込んだ動物系スープです。「こどもからお年寄りまで食べられるあっさり系でやろうと思っていたので、試作段階ではゲンコツとモミジのみでした。でも、カエシと合わせた時に味がぼやけてしまって。背骨を追加してダシ感を強めてみたら味のバランスが良くなったという感じです」。
褐色のスープに細麺を合わせ、しっとりと低温調理されたモモ肉チャーシューが5枚添えらえた「ちゃーしゅー麺」。レンゲでスープを啜ると、鮮烈な醤油の香りのあとに旨味がじんわりと広がります。細麺の食感はプリプリと小気味よく、のど越しも滑らか。「これは実は博多ラーメン用の細麺なんです。茹で時間が1分なので提供までの時間を短縮できますし、うちのスープとの馴染みも良くて採用しました」。
一方の「塩らぁ麺」は、2024年5月に登場したばかりの新作メニューです。「研究にかなり時間をかけた」という塩ダレは、鯛のアラや昆布、煮干のダシを効かせたまろやかな仕様。先ほどのシャープな印象の醤油味とは真逆の、とても丸みのある味わいです。こちらのトッピングもモモ肉チャーシューですが、「あすみ」では常時3種類のチャーシューを用意していて、髙橋さん曰く「僕が一番気合を入れているのがチャーシューなんです」。そうと聞いたら他の2種も気になるので、追加で「3種のちゃーしゅー」(400円)をオーダー!
肉の扱いは誰にも負けない。吊るし焼きと低温調理でとことんおいしく
「3種のちゃーしゅー」は、左から順に肩ロース、モモ、バラ。すべて同じ味付け、調理法で仕上げていますが、脂の入り方や肉質によって味わいは三様。噛むほどに広がっていく肉の旨味が、髙橋さんの丁寧な仕事ぶりを証明しているかのようです。
味付けは醤油とみりんだけで作ったシンプルなタレを使っているそう。専用の窯で吊るし焼きすることで余分な脂を落としながら旨味を引き出し、その後低温でゆっくりと中まで火を入れていきます。髙橋さんがチャーシューに最も気合いを入れる理由は、「『一鐵』時代に肉の扱いをガッツリ勉強しましたからね。部位ごとに一番おいしい状態に仕上げようと、めちゃくちゃこだわって仕込んでいます」。
チャーシューは見た目にもこだわっており、基本的にはオーダーが入ってから切り出します。「断面が変色したチャーシューが乗っていたらテンション下がりますよね。なので切ったばかりの色味を大事にしています」。
商店街の外れに店を開いて1年3カ月。着実に増えつつある常連客や、ネット上での高評価レビューには感謝しかないと語ります。ボクシングを離れて人生は思いもよらない方向へと進みましたが、鍛錬と工夫を重ねてたどり着いた現在地。ひとりでも多くのお客さまに「おいしい」と言ってもらえる味を目指し、愚直にラーメンと向き合う姿はまさしくプロフェッショナルでした。
※価格はすべて税込
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