LINEで送るカフェ然としたおしゃれな空間が魅力のラーメン店
飯能駅の北口から伸びる駅前通りをまっすぐ進むと、右手にカフェのような洒落た店が見えてきました。ベージュのひさしにガラス張りという、ラーメン店とは思えない店構えに心がワクワクしてきます。
店内に入るとお揃いのユニフォームを着た店主夫妻が厨房から「いらっしゃいませ！」と出迎えてくれます。入口脇にある食券機でおすすめの「醤油そば」（850円）を購入し、カウンター席に向かいます。
魚介と鶏が織りなすバランスのとれた繊細な味
「中華そば きなり」が創業したのは2015年。当初は東京・駒込にわずか6席の小さなラーメン店「麺処きなり」として誕生し、そこから数年おきに東中野、新所沢と移転を重ね、2022年１月から飯能で営業しています。
白木のカウンターに置かれた「醤油そば」は、桃色のチャーシューにほうれん草とネギの緑が映える凛とした佇まいの一杯です。
丼からほのかに漂う醤油の香り。もちもちとした食感の麺が出汁をまとった優しい味わいのスープを口に運んでくれます。創業からずっと使うのは東久留米にある「三河屋製麺」の特注麺。食感と麺をすすった時の感触を考えて国産小麦にこだわっています。
スープ素材は３種の煮干しと４種の厚削り節、干しシイタケ、日高昆布。これにアサリと鶏胸肉のミンチをプラスして毎日スープを仕込んでいます。「動物系素材は味のインパクトを強く出せる反面、雑味やコラーゲン成分が魚介ダシの繊細な旨味を打ち消してしまうんです。丸鶏やガラではなく、うちは鶏ミンチを使って魚介ダシを下支えするようなスープに仕上げています」。細やかに計算された旨味のバランスがあってこそ、スープに深い余韻が生まれるのです。
「醤油そば」とならんで人気なのがこちらの「塩そば」（850円）。透明感のある黄金色のスープに麺と具材が盛り付けられており、端正なビジュアルです。ベースとなるスープは醤油そばと同じですが、塩ダレの隠し味にペルノという薬草酒を使用しています。「フランス料理店にいた頃、シェフが魚介スープにペルノを入れていたんです。15種類ほどの薬草が入ったお酒で、タレにほんの少し加えると抜群の熟成感が出せるんですよ」。
クリアでいて旨味じんわり。目指すはワインのような奥深さ
店主の土橋健司さんは、東京都江東区生まれ。30歳まで働いていたフランス料理店時代にはソムリエの資格も取得し、その頃の知見が独創的なタレ作りに生かされています。
「調理から接客までをひとりで完結できるこぢんまりとした店をやりたいと思っていたんです」。フランス料理店からラーメン店へと方向転換するきっかけを語る土橋さん。仕事帰りに仲間とよく訪れていたラーメン店の店主といろいろ話すうちに、「『すべてひとりで完結できる飲食店』というこだわりを叶えるのはラーメン店かもしれない」と思うようになりました。とはいえ、ラーメン作りに関しては全くの素人。当時、都内で人気を博していた有名店に就職し、スープ作りや店の経営などを一から勉強します。
そうして2015年、土橋さんは東京・駒込の路地裏に「麺処きなり」を創業。ラーメンは評判を呼び、やがて人気店の仲間入りを果たします。「この7年で麺もスープも進化させてきていますが、基本的な部分は変えていません。めざしているのは、ファーストインパクトがクリアで後から舌にじんわりと旨味が広がっていく......まるでワインのような複雑さを持ったスープです」。
夫婦二人三脚で目指すさらなる味の高み
「中華そば きなり」のメニューは定番の「醤油そば」と「塩そば」に、季節ごとに替わる限定麺。この日の営業後も、土橋さん夫妻は店に残って夏の限定麺の試作を行っていました。長年の経験値をもってしてもメニュー考案には常に生みの苦しみがあると言います。
「手っ取り早くそこそこおいしいラーメンを作ることはできます。けど、それじゃあ僕が満足できないんです。自分なりにとことん突き詰めて新しい味を生み出していきたくて」。
繊細な味が売りのラーメンゆえ、素材を煮込む時間は時季に合わせて分単位で調整します。「常に素材の機嫌を見ながらスープを作っています。正解がない物を扱うのは飽きないですよね」。
そうしてとことんまで練り上げて完成させたラーメンを味見するのは加奈さんの仕事です。エッジが効きすぎていないか、味のバランスは崩れていないかなど、客目線に立って完成度を高めていきます。
飯能へ根を下ろして半年。これからも土橋さん夫妻は二人三脚でラーメンの味を高めていくことでしょう。
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