"角打ち+カフェ"という新しいスタイル
壁面に「さかやさん」と大きく描かれた外観が目印の「柳屋酒店」は、創業70余年の老舗。店の奥には冷蔵ショーケースにビールやワイン、日本酒などが並ぶ、昔ながらの酒屋さんの佇まいです。
この酒店が2020年11月にリニューアル。酒屋とカフェがコラボした新しい複合スポット「WILLOW HOUSE」として話題を呼んでいます。こちらでは川越発のクラフトビール「COEDO」の生ビールをはじめ、店で販売しているお酒とつまみを店内で楽しめる、いわゆる"角打ち"スタイルになっています。
そして柳屋酒店の手前にあるのが、併設された「Little Edo Coffee」。老舗の酒屋とスタイリッシュなカフェのコントラストもユニークで、ちょっと不思議な空間が広がっています。改装時に天井の壁を壊した際に出てきたというトタンの屋根が開放感を与え、壁もコンクリートの打ちっぱなし風。ブルックリンスタイルとも呼ばれる"工場系カフェ"をイメージした内観は、独特の世界観を感じさせます。
今回お話を伺ったのはオーナーの鵜野友大さん。弱冠24歳で店を立ち上げた若き店主です。実は「柳屋酒店」は鵜野さんの実家。お父さまが店を切り盛りする酒屋の一角に店を構えたのにはどんな理由があったのでしょうか。
コロナ禍で見つめ直した、本当にやりたいこと
鵜野さんは以前、海外アパレルブランドのショップで働いており、店内にバリスタがいるカフェを併設していたそうです。元々カフェが好きで、週末には都内を中心にカフェ巡りをするのがライフワークだったそうですが、バリスタがコーヒーを淹れる姿を間近に見られる環境にいたことで、カフェへの興味はより深まっていきました。
その後、商社に転職し、海外赴任でマレーシアに。ここでも休日にはマレーシアを拠点に、シンガポールやタイなどまで足を伸ばしてカフェ巡り三昧。東南アジア諸国はカフェ文化が発展していておしゃれな店が多く、カフェマニアの鵜野さんにとっては大きな刺激になったようです。
やがて日本に帰国すると、新型コロナの影響で仕事はリモートワークに。制限のある環境で仕事を続けるにつれ「自分の将来のことなど、いろいろ考えるようになった」といいます。
自分が本当にやりたいことはなんだろう......と自問する先にあった答えはやはり「カフェ」。そこからは迷いはなかった、と鵜野さんは振り返ります。
実は、カフェを立ち上げたのにはもうひとつ理由がありました。
「酒屋の売上は近隣の飲食店への卸販売が大きなウェイトを占めています。ところが緊急事態宣言で飲食店が営業できなくなったことで、うちの酒屋も卸す先がなくなってしまって」
コロナ禍に直面して大変な思いをしていた実家の酒屋を間近で見ていた鵜野さんは、お父さまに「酒屋の一角でカフェをやらせてほしい。酒屋の強みを生かしてお酒も提供できるようにするのはどうだろう」と提案します。
その返答は「店のスペースを使うのは構わない。ただし資金の援助はしないから、自分の力でやってごらん」というもの。そこにあるのは、息子の決意を後押ししながらも、ひとりの経営者として接する父の姿でした。
2ヶ月間の改装期間を経て念願のカフェを開くことになった鵜野さん。町の酒屋として多くの飲食店とのネットワークがあったこともあり、「柳屋さんの息子がカフェを始めるらしい」という噂は瞬く間に広がり、多くの人に応援してもらったといいます。
SNS育ちのカフェがSNSで広がっていくおもしろさ
数多くのカフェを巡ってきた鵜野さんですが、バリスタとしての経験はほぼゼロからのスタート。エスプレッソの淹れ方やラテアートの描き方は、YouTubeやSNSの動画を見て独学で覚えたというから驚きです。
店をオープンしてからもInstagramなどで検索し、バリスタとして活躍する人に直接コンタクト。店に足を運んだり、写真を見せてアドバイスをもらったりしながら腕を磨いていったそうです。
教えを乞うたバリスタの中には世界大会で優勝するような実力者もいて、その人が出場する大会を手伝うなどしながら関係を深め、バリスタとしてのスキルアップを図っているのだとか。鵜野さん流に言えば「SNSを通じてどんどん"絡みにいった"」というその行動力、脱帽です!
さらに興味深いのは、この店を訪れるお客さまもまたSNSによって広がっているという点。学生から年配の方まで客層は幅広いですが、その多くはSNS世代の若年層なのだとか。週末にはラテアートと店の雰囲気を収めようと熱心にスマホを構える人も多く、さらにアップされた写真を見て訪れるお客さまも増えているそう。
「店では豆にこだわったハンドドリップ コーヒー(500円)もあるのですが、多く出るのは圧倒的にカフェラテ(500円)。実はストレートコーヒーは飲めないという方も多いんですよ」と鵜野さん。
「Little Edo Coffee」のもうひとつの魅力は自家製スイーツ。中でも人気なのは地元・川越の江田養鶏場から直接運ばれてくる新鮮な卵を使った「自家製プリン」(500円)。濃厚な卵の味がしっかりと味わえます。昔ながらのスタイルは昭和レトロブームと相まって話題になったのだとか。
他にも甘さ控えめのバナナパウンド(350円)やカヌレ(1個300円)などの日替わりスイーツが毎日3、4種類登場。特にカヌレは、ミシュラン常連店の都内フレンチレストランに勤めるお兄さんから直伝されたという本格的な味わいです。
そして、窓際で圧倒的な存在感を放っているのが鵜野さんの愛車・ハーレーダビッドソン。"工場系"カフェ の世界観にマッチしています。SNSで見かけたハーレー乗りのバイカーさんが訪ねてくることもあり、時間があればバイク談義に花が咲くことも。さらに店内では鵜野さんがセレクトした古着やオリジナルグッズも販売。アパレル系出身のセンスが光ります。
カフェをコーヒーだけのものでなく、お酒やファッションなどと融合したカルチャーとして捉えた"新世代カフェ"。鵜野さんが紡ぐ世界観はきっとこれからも進化を続けることでしょう。
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