昼はうどん、夜は居酒屋の二毛作
「うどん土麦」の店主・小林秀明さんは、20代でイタリアン、30代は和食居酒屋の厨房で経験を積んだ料理人。父親が川越市南古谷でうどん職人として長年腕を奮っていた縁もあり、将来自分の店を出す選択肢の中にうどん屋があったという。現在の店舗を紹介してもらったタイミングで、その選択肢が現実のものとなった。昼はうどん、夜はうどんが食べられる居酒屋として、2018年に「うどん土麦」をオープンした。
埼玉県では太麺で硬めの武蔵野うどんが定番だが、街での食べ歩きも楽しめるように「うどん土麦」ではやや細麺の讃岐うどんを提供している。手打ちの自家製麺は、地粉とオーストラリア産、それに香川県の胚芽入り全粒粉を取り寄せてブレンド。前日にこねたうどん種を一晩寝かせるのがこだわりだ。小林さん曰く、熟成された麺はよりモチモチとした食感になるのだという。
限定メニューが定番化した「レモンの冷やかけうどん」
一番人気を尋ねると「レモンの冷やかけうどん」との答え。澄んだいりこ出汁の上に無農薬の輪切りレモンが敷き詰められたどんぶりはフォトジェニックだ。「和服を着て観光に来る女子大生に特に人気で、写真を撮られる方も多いですね」と小林さん。若い女性たちを中心に評判を呼び、オープン当初の限定メニューが看板メニューになったのだとか。
この「レモンうどん」は小林さんが東京で働いていたころによく食べていたすだち蕎麦がヒントになっているという。オープンに当たって何かこの店ならではの新しいことができないかと試作を繰り返した結果、レモンといりこ出汁の相性の良さに気が付いた。さっぱりとした出汁にレモンを絞ると、程よい酸味と苦味が加わり、麺をすするたびレモンが爽やかに香る。細麺ながらモチモチ食感のうどんがするすると進むが、一気に食べきってしまわずに、テーブルに置かれた「青海苔の天かす」を入れてほしい。油と海苔の香りが味に深みと旨味を出し、また違った味わいを加えてくれる。
「自分はうどん職人というよりは料理人なので、旬の香りを入れることにはこだわっています。料理のちょっとしたところにも香りを感じてもらいたい。天ぷらメニューも一年中同じではなく、その季節に旬を迎える野菜を提供するようにしています」と小林さん。
さりげない香りが効いた人気メニューも
そんな「うどん土麦」の人気メニューがもうひとつ。「鶏天おろしぶっかけ香味うどん」だ。名前からもわかる通り、こちらもこだわりの香りが潜んでいる。美しく盛り付けられたうどんにはレモンや生姜、ミョウガにカイワレといった香味野菜の付け合わせ。かえしにワインを使用したやや甘めのつゆでいただく。さっぱりとした味わいに鶏天の油がマッチし、食べ応えも抜群だ。
夜の居酒屋としての営業の際もうどんを注文することが可能だ。うどんにもよく合う人気のお酒は日本酒。小林さんが特に注目しているという福島県のお酒が豊富に揃う。「福島のお酒はフルーティーで旨味のあるものが多いんです。昼のメニューに載っていないものでも声を掛けていただければお出しできますよ」。
思いやりと飽くなき探究心で何度も来たくなるお店に
観光客で行列ができることもあるという「うどん土麦」。小林さんにその人気の理由を伺うと「立地の良さはもちろんですが、やはりレモンうどんの影響が大きいですね。オープン前はこんなに若い方々に並んでもらえるとは思っていませんでした。だからこそ若い人たちにも食べやすいメニューを考えたり、写真に撮りたくなるような見た目も意識します」と話す。しかし、若者だけが客層ではない。「お年寄りには麺をしっかり茹でて軟らかくしたり、麺を巻かずに盛り付けることも。それぞれのお客さまが食べやすいように工夫はしています」。小林さんのこういった細やかな気配りが居心地のよさを生み出しているのだろう。
看板メニューが確立した今でも2週間〜ひと月のペースで限定メニューを開発し、新しい料理への挑戦を続けているという。新たに生まれる季節の香りを味わいに、何度でも足を運びたくなるお店だ。
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