和食店然とした店構えが印象的な無化調ラーメン店
下井草駅前を離れ、最初の交差点までやって来ると「中華蕎麦 はる」が見えてきました。漆喰を施した外壁や入口横に置かれたメニューボードなど、まるで和食店のような落ち着きのある佇まいです。
店内は厨房を囲むL字カウンター10席のみ。2017年の開業から店をひとりで切り盛りするのは、店主の星野健さんです。1973年に八王子市で生まれ、「高校を出てから情報処理の専門学校に進みましたが、やりたいことも見つからずに淡々と毎日を過ごしていました」という青年時代。さまざまな職業を経て24歳の時に料理の世界に飛び込みます。
「20代半ばが見えてきて焦りもあったんでしょうね。『将来食いっぱぐれないよう手に職を付けよう』と思い、飲食店に入りました」と語る星野さん。料理の世界を意識したのには訳があります。高校1年生の時に大好きだった母親を亡くし、毎日のように台所に立って家族全員分の料理を作っていたそう。高校時代にも近所の和食居酒屋でバイトをするなど、星野さんにとって料理は身近な存在でした。
当時八王子にあった四川中華料理店に入り、調理を基礎から教わっていった星野さん。人気店ということもあり想像以上にハードな職場でしたが、「初日に料理長が作ってくれたまかないが驚くほどおいしくて。『俺も頑張って、将来はこれくらいおいしい料理を作れる人になりたい!』という思いが支えとなり、厳しい修業を乗り越えられました」。
入社3年で調理場を任されるようになり、星野さんは料理の経験値をもっと高めたいとタイ料理店に転職します。「自分の中で知識の幅を広げたくてタイ料理を選びました。そこで3年ほど働いて、食材や調味料など、本場の味をしっかりと叩き込んでもらいました」。
その後、縁あって就職した大手飲食チェーンがラーメン事業を立ち上げることになり、星野さんは経験を見込まれて複数の店舗で店長を務めます。飲食業界に入って10年が経った頃で、「ラーメンの味づくりと店舗経営の知識をそこで一気に習得しました」と振り返る星野さん。さらに10年ほど修業を重ね、44歳の年に満を持して独立しました。
鶏ガラからじっくり旨味を抽出した"飲み干せる"淡麗ラーメン
今回は看板メニューの「中華蕎麦」を味玉入り(950円)でオーダー。大山どりのガラをじっくりと煮込み、特製の醤油ダレを合わせた香り高い一杯です。麺は全粒粉を練り込んだ歯切れの良い細ストレート麺。星野さんが「コンセプトは日本蕎麦」と言う通り、麺に絡むダシと醤油の香りはどこか日本食を思わせるやさしい味わいです。
「都内にこれだけ多くのラーメン店があるので、競合に負けないようコンセプトをしっかり作り、かつ素材の味をしっかりと効かせた無化調で行こうと開業時に決めました」。
カエシに使うのは、広島県の児玉醤油から取り寄せる「天然醸造醤油」です。「全国各地の醤油を試しに試し、卵かけごはんで食べた時にシンプルにおいしいと感じる醤油がこれでした。味と香りのバランスが良く、強い旨味が特徴です」。これにカツオ節や昆布、シイタケなどのダシを加えて旨味たっぷりのカエシを作ります。
「カツオ節はイノシン酸、昆布はグルタミン酸、シイタケはグアニル酸というふうに旨味成分が異なります。これらを掛け合わせることで化学調味料に頼らなくてもガツンと旨味の効いたスープに仕上がるんです」。
サイドメニューの「麻婆ごはん」(280円)は毎週火曜日、金曜日、日曜日に提供。3年熟成させた豆板醤「郫県豆瓣(ピーシェントウバン)」を使い、四川中華の店で覚えたレシピを頼りに店内で仕込んでいます。辛さを抑えたコク深い味わいが良いアクセントになっています。「月曜日、木曜日、土曜日は日替わりで『季節のごはん』をお出しします。たまにタイカレーなんかもやっているんですよ」。
締めは「杏仁豆腐」(250円)を。乾燥した杏の種「杏仁」を使った本格仕様で、季節ごとのフルーツが添えられています。なめらかな食感とほのかな甘みで、優雅な食後のひとときを味わえます。
星野さんに今後のことを聞くと、「まずは10年続く店にしたい」と一言。お客さまに飽きられないよう、ラーメンもサイドメニューもすべてに手間暇をかけ、当たり前のことをちゃんとやる店であり続けたいと語りました。
店名の「はる」は亡き母・はるみさんから取った言葉であり、一人娘の名前でもあります。「母は50歳を待たずに亡くなりました。そんな母の分まで人生を楽しんでほしいから娘に『はる』と名付け、自分の店にもその名前を付けました」と星野さん。自身にとって大切な人への思いを胸に、今日も丹精込めた味づくりを実践しています。
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