「毎日食べても飽きないから」とうどん屋に
店内は、カウンターとテーブル席が2卓。奥には広い座敷席があり、50人ほどが入れる作りになっている。平日のお昼時にはサラリーマンやご近所のご年配が、休日には小さなお子さんを連れたファミリーなどが次々と暖簾をくぐる。中には、「ここのうどんなら残さず食べる」という小さな常連さんもいるとか。
元々とんかつ屋で修業していたという、ご主人の島崎さん。地元で自分の店を持ちたいと考えた時、思いついたのはうどん屋だった。「とんかつは毎日食べられないけど、うどんなら毎日食べても飽きないでしょう?」と。確かに、「なべきち」のうどんは、不思議なほどにツルツルと進み、かなりのボリュームでもあっという間に食べきれてしまう。
こちらのお店では、メニューが武蔵野うどん店ならではのL表記で、人気メニューの「もりもり2L(780円)」は通常の4玉分。2Lや3Lは当たり前、取材時は4Lや5Lを完食したお客さまもいた。
コシがあるだけが武蔵野うどんではない
うどんの仕込みは毎朝6時半から、粉に塩水だけを加えて練る方法で作られる。練って丸めて一晩寝かせ、足踏みして伸ばして板にするまでで2日。切って茹で、お客さまに出すまでに3日を要している。茹でる時も妥協はしない。入口のすぐ脇にある調理場に立ち、入って来るお客さまの様子を見ながら茹で加減を変えるのだ。
「柔らかめが好きな年配のお客さまもいるし、固めが好きな人もいる。お客さまの顔を見てから茹でないとね」という島崎さん曰く「コシがあるだけが武蔵うどんではない」のだとか。全粒粉ならではの粉の風味やのど越しのなめらかさ、コシの強さのバランスが取れてこそ、武蔵野うどんのおいしさが成り立つというわけだ。
こちらのお店の定番はやはり肉汁うどん。お好みの量を選べるもりもりうどんを、温かいものと冷たいものから選べるつけ汁につけていただく。群馬から取り寄せるという栄養豊富な全粒粉をブレンドして使っているため、うどんはほんのり褐色を帯びている。出汁は添加物や化学調味料を一切加えず、鰹の香りが自然に香るやさしい味。最後まで飲み干せるつけ汁だ。
女性に人気なのが、肉汁ざるうどんに天ぷら、デザート、コーヒーまで付いた「レディースセット(1350円)」で、島崎さんの奥さまが手作りするカントリーケーキが好評なのだとか。「ケーキはうどんと同じくらいファンが多いんだよ」とご主人が笑う。
武蔵野のおふくろの味を供し続けて38年
「なべきち」をオープンさせたのは島崎さんが32歳の時。初めは東久留米の市役所そばに小さな店を開き、今の場所へ引っ越してきたのは18年前だ。島崎さんのうどん歴は幼少期にさかのぼる。島崎さんが育った東久留米の実家は小麦も育てる農家。ハレの日や集まりの時は、お母さまが手打ちうどんを皆に振舞ったそう。この"おふくろの味"が「なべきち」のうどんの原点となっている。
オープンした38年前は、まだ"武蔵野うどん"の名称は知られておらず、「なべきち」は昔から武蔵野地域の家庭で食べられていた手打ちうどんを供する店としてスタートした。うどん店が増えた現在でも、「なべきち」では武蔵野のおふくろたちが振舞っていたやさしい味のうどんを変わらずに打ち続けている。
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