カフェのような居心地の良さを感じさせるラーメン店
暖かな陽気に包まれた目抜き通り沿いに見えてきた「麺屋 幸生」。お店の外観は看板に外壁、暖簾に至るまですべて白で統一されたシンプルな佇まいが印象的です。新型コロナ対策として、店の前には待合用のイスが置かれています。
店主の西川幸(こう)さんは1981年に地方で生まれ、大学入学を機に上京。ラーメン好きが高じて20代後半でこの業界に入りました。所沢市に縁はありませんでしたが、「ゆったりとした時間が流れる平和な空気感が気に入ったので、ここに店を開くことにしました」とのこと。
女性でも気軽に入れるようにと、カフェをモチーフにして決めた店の内装。北欧デザインのテーブルとイス、店の片隅に置かれたドライフラワーや壁に掛かった絵はどれも自身でセレクトしたものです。「イスの座り心地やグラスの触感など、"居心地の良いラーメン店"をテーマに決めました」と西川さん。
修業先で培った味を進化させたストロングなスープが魅力
6種類の定番メニューと日替わりメニューを合わせて毎日7種類をラインナップ。西川さんのオススメは券売機の左上、いわゆる看板メニューの「白湯味噌らーめん」(850円)と、2022年1月に発売したばかりの「中華そば(醤油)」(800円)。さっそくオーダーします。
「白湯味噌らーめん」は、西川さんが長年修業した中野区の名店「味噌麺処 花道庵(旧店名:味噌麺処 花道)」をリスペクトした一杯。豚と鶏を掛け合わせた動物系スープに、信州味噌とラードを合わせて味を完成させます。
スープの仕込みも見学させてもらいました。「ゲンコツと豚足を5時間煮込んだスープに、鶏ガラ、モミジ、豚の背骨を時間差で入れ、骨まで砕いてさらに濃度を高めていきます」。いくつもの動物系素材を使い、じっくりと煮込んでいくことで味も口当たりもストロングなスープが完成するわけです。
スープとの絡みを考え、東久留米の「三河屋製麺」から仕入れるのは平打ちの中太麺。モチッとした食感が心地よく、まろやかな味噌スープを口に運んでくれます。
「中華そば(醤油)」も実食。味噌と同じ動物系スープに特製のカエシを加えた甘めのスープ。そこに歯切れの良い中細麺を合わせます。しっとり柔らかく仕上げた肩ロースチャーシューに青菜、自家製メンマ、のりが添えられた、どこかノスタルジックな表情が食欲をそそります。住宅地という地域柄、子どもからお年寄りまで幅広い客層にアプローチできるメニューとして考案したのだそう。
ラーメンのおいしさを知った20代。ゼロからの挑戦
大学卒業後は都内で物流関係の仕事に就き、行く先々でラーメンを食べることが楽しみだった西川さん。「ラーメンのおいしさに気づいたのは25歳の頃です。自分が何をして生きていこうか迷っていた時期だったので、『ラーメンを作る人になるのもいいかな』って、漠然と考えていました」。
2009年、西川さんは27歳で「味噌麺処 花道庵(旧店名:味噌麺処 花道)」に弟子入り。飲食店で働いた経験がないのにラーメン店の厳しい職場でやっていけるのか、周囲からは心配の声もあったそうです。
「花道庵」の忙しさは想像をはるかに超えるものでしたが数年ほど続け仕事にも慣れた頃、西川さんはより多くの経験を積むためにいくつかの人気店を渡り歩きます。「今思えば欲張りすぎていたのかも。30代になって体調を崩しがちになり、単純にラーメンが好きという気持ちだけでは厨房に立てない状態になっていました」。
32歳で東京を離れることを決意し、業界のイロハを教えてくれた垣原さんに別れの挨拶をして実家に戻りました。
夢半ばで帰郷した30代。一本の電話で歯車が動き出した
「地元では運送ドライバーをしていました。一時はラーメン屋にも足が向かないくらいでしたね(笑)」。慌ただしかった東京時間とは真逆の穏やかな日々を3年ほど送っていたある日のこと、垣原さんから連絡が入ります。
「『今スタッフを募集しているんだけど、まだやる気があるなら戻ってこい』って。ラーメンは好きだけど、ラーメン屋で働く自信はありませんでした。でも、僕を必要としてくれていることに感激しちゃって」。2015年、西川さんは再び上京し「花道庵」の一員となります。
それから5年。独立を決意した西川さんに対して垣原さんから贈られたできたての白い暖簾。亡き祖母からもらった「幸」という名に生きると書いて「幸生」。自身がおいしいと思う一杯で多くの人を幸せにしていくという思いを屋号に込めました。
「オープンするまでは不安でしょうがなかったです。味や接客はもちろん、経営のことまで自分で決めていかなきゃですからね」。そんな心配をよそにオープン当初から客足は伸び、2021年はラーメン専門誌で新人賞を獲得するまでに。家族連れや女性客もだんだんと増えていきました。
「今までは垣原さんのもとで教わった味を自分なりにアレンジして提供してきました。今年中には自分で一から作り上げたオリジナルラーメンを出そうと計画しています」。オープンからの約1年半を振り返りつつ、次は自分の色を打ち出していくタイミングだという西川さん。それは「一生この世界でやっていくのだ」という固い決意でもあります。
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