故郷を思わせるような温かな空間づくり
千本格子の扉を開けて、木のぬくもりに包まれた店内へ。
古き佳き日の日本の原風景を彷彿とさせるような小上がりの掘りごたつ席と、味のある一枚板のカウンター。珪藻土の壁に美しい欄干、囲炉裏道具などの調度や意匠に囲まれた空間に思わず見入ってしまう。
古民家のムードそのものだが、実は16年前の開業時の新築。内装はすべて店主・小町勝美さんが自らのアイディアを形にしたというからさらに驚きだ。
独自製法にこだわった「小甼流勝味うどん」
たゆたうような時間を過ごしながら、待つことしばし。大きな皿に乗ったうどんの登場だ。
こちらで味わえるのは、小甼流勝味(こまちりゅうかつみ)うどん。この界隈で盛んな武蔵野うどんとは一線を画す、独創的な製法にこだわっている。
「かつて、このあたりは土地が痩せていて小麦くらいしかできなかった。そこで生まれたのが武蔵野うどん。でもこの辺で作っている小麦は色は黒いし、苦みがある品種なんですよ」。
そこで店では地粉は使わず、ブレンドした小麦を使用しているという。
また、うどんの材料といえば小麦粉と食塩、水というシンプルなイメージだが、この店が特徴的なのは還元水に粗塩、米酢、卵、酒を加えた加水液を使っていること。それにより独特のコシに加え、なめらかで艶やかな味のあるうどんに仕上がっている。特に酢には隠し味のほか、日持ちを良くし、麺をより白く発色させるなど、さまざまな役割があるのだとか。
つけダレは昆布にサバ節、宗田節、いりこ、本枯れ節を煮出し、最後に追い鰹。このひと手間を加えることによって、ふわっと香るだしがしっかりと味わえる。
メニュー筆頭の「勝味うどん」はうどんに4種の天ぷらと小鉢がセット。この日はサツマイモと人参、セロリ、えのき茸が天ぷらとして添えられた。揚げたてで運ばれる天ぷらはからりと食感も良く、濃いめのつゆとのバランスが絶妙だ。
「よもぎうどん」(1日9食限定)もぜひ味わってほしい一皿。生のよもぎを冷凍保存したものをミキサーで細かく摺り下ろし、すべて手仕込みで練りこんでいるため、一般的にイメージするものより香りも味わいもずっと奥深い。
また、武蔵野うどんの定番メニュー「野菜糧(かて)付きの肉汁うどん」は820円。つけダレはやや甘め。うどんの塩味が合わさるとちょうど良いバランスに仕上がっている。
こだわりの詰まったメニュー
店で提供するメニューにはどれもふんだんに野菜を使用。そのことが評価され、東京都から「野菜たっぷりメニュー店」として推奨されているそうだ。 また、野菜あんかけうどんには片栗粉を使わずに葛あんを使うなど、きめ細やかな仕事とこだわりが徹底されているのがこの店の魅力だ。
開業前から培われたうどんへの探究心
店主・小町さんはこの店の開業前まで勤めていた東村山市役所でも、地域のうどん文化を保存、継承に力を注いでいた。市役所内でうどん研究会を主宰。市のイベントで手打ちうどんを振る舞ったり、小学校でのうどんづくり体験の講師をしたりと、幅広い活動をしてきたそうだ。
「うどんは平安時代に中国から伝来して、当時は"おんどん(饂飩)"と呼ばれていたそうです。江戸時代になると、小麦を練って細く切ったものを"ほそむぎ"と呼び、それを冷やして食べるものを"ひやむぎ"と呼ぶようになった。それが今のうどんのルーツなんですよ」と小町さん。
開業前から、うどんの歴史から製法までさまざまな書物などを読み漁り、さらに自身で試行錯誤を繰り返しながら幅広い知識と経験を重ねてきた。
開店当初は板前さんを雇って営業していたが、途中から小町さん自身が厨房に立つことを決意。それまでに培った知識や経験をもってしても「イベントなどでふるまっていたのとはまったく違う緊張感があった」という。そんな時、帰り際に「おいしかった」と声をかけられると、とても嬉しかったのだとか。
「その一言でお客さまが食べたいメニューはこれで良かったんだ、と自信がつきましたね」。
今は自分のペースで無理のない範囲でやるだけ、と話す小町さん。 どうかお身体を大切にしつつゆっくりとでも、うどんづくりを楽しみながらお店を続けてもらえたらと心から願う。
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